「48テ」クソヤロー日記

誰かに共鳴してほしい。切実に。

3秒間だけくれないか。(前編)

 

 

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よく学生時代の恋愛エピソードを‘甘酸っぱい経験’と表現することがあるが、高校2年の夏に起きた出来事は、甘さよりも酸っぱさが勝るようなビタミンC強めな経験だったと言わざるを得ない。

 

それは夏期中間テストを1週間まえに控えた日差しのてりつく夏の日だった。私を含めた仲のいい友達3人とファミレスでテスト勉強をすることになったのだが、それをどこかしかから聞きつけた仲の良い女の子が「私も行ってもいい?」っと言ってきたのだ。

その女の子は酒井。活発な女の子で当時バスケット部に所属していた彼女は高身長で人当たりがよく、ひまわりのようなのびのびとした存在だった。

そんな酒井が一緒に勉強したいと言ってきたので、余程テストに自信がないのかと思い、軽い気持ちで「なにが目的なの?」と伝えたのだ。

こちらの意図としては「目的」=「テスト教科」のつもりだったのだが、この質問をきっかけに勉強どころじゃ済まないことになった。

私の質問を受けた酒井は、急に辿々しくなるや落ち着かない様子でソワソワしている。そして一呼吸おいて重い口を開いた。

「実は私、藤井くんのことがきになっていてさ。」

もちろん、私は藤井ではない。藤井はテスト勉強に参加する3人の1人。身長は160センチと少し小さめだが、テニスで焼けた褐色の肌と笑った時に声がさんまさんみたいに高くなるのが特徴的ないい奴だ。

 

その藤井のことを酒井は好きになったということだった。きっかけはクラスが一緒になって行われた体育大会。団体戦での綱引きで不意に繋いで触れた手と手をきっかけに意識するようになったということだった。

そんなことまでしっかり話を聴かされてしまった次第、酒井の健気な恋を応援しないわけにはいかない。そう思った私は今回の勉強会で2人の距離をグッと近づかせるため計画を立てることにしたのだった。

もう1人の友達、足立にも協力を得て待ち合わせのファミレスに2人揃って1時間遅れることにしたのだ。遅れる理由は先生に呼ばれて居残りさせられることになったとでも言っておけば藤井は大丈夫だった。人を疑うということを全くしない本当にいい奴だ。

そんないい奴を好きになった酒井も、男女分け隔てなく話してくれる元気で明るい、いい奴だ。

そんないい奴同士が付き合うことになればこんなに喜ばしい事はない。そんなふうに藤井の気持ちなど関係なく酒井の藤井に対する想いを尊重して2人だけの時間を作ってあげた。

 

その時の私は恋のキューピットになったかのような、2人の恋愛の行く末を見守る立場に浸っていたのだった。

 

後編に続く。